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長崎家庭裁判所 昭和61年(少)11257号 決定

少年 S・S(昭43.3.17生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  公安委員会の運転免許を受けないで

(1)  昭和61年8月30日午後零時59分ころ、長崎市○○町×番×号○○バス○○営業所付近道路において、普通乗用自動車(長崎××め××号)を運転し

(2)  同年同月22日午後2時15分ころ、長崎県島原市○○×丁目××番地先道路において、前記車両を運転し

2  同日午後2時06分ころ、法定の除外事由がないのに、長崎県公安委員会が一時停止すべき場所と指定した同市○○町××番地先道路において、前記車両を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつた

3  前記日時ころ、法定の除外事由がないのに、長崎県公安委員会が一時停止すべき場所と指定した同市○○町××番地先道路において、前記車両を運転して交差点に入るに際し、一時停止しなかつた

4  同日午後2時07分ごろ同市○○町××番地先道路において、同所に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで前記車両を運転通行した

5  同日午後2時08分ごろ長崎県公安委員会が道路標識により追越しのため右側部分はみ出し通行禁止の場所と指定した同市○○町××番地先道路において、前記車両を運転中、自車の前方を同一方向に進行中の車両を追い越すに際し、右側に進路を変更し、中央線を越えて右側部分に自車の車体半分以上をはみ出して約150メートルにわたり右側通行した

6  同日午後2時10分ごろ前記公安委員会交通規制の場所と指定した同市○○町××番地先道路において、前記車両を運転中、自車の前方を同一方向に進行中の車両を追い越すに際し、右側に進路を変更し、中央線を越えて右側部分に自車の車体半分以上をはみ出して約200メートルにわたり右側通行した

7  同日午後2時11分ごろ前記公安委員会交通規制の場所と指定した同市○○町○××番地×先道路において前記車両を運転中、自車の前方を同一方向に進行中の車両を追い越すに際し、右側に進路を変更し中央線を越えて右側部分に自車の車体半分以上をはみ出して約300メートルにわたり右側通行した

8  前記日時ごろ同市○○町○××番地先道路において同所に設置されている信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで前記車両を運転通行した

9  同日午後2時13分ごろ長崎県公安委員会が道路標識により追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の場所と指定した、同市○○町○××番地×先道路において前記車両を運転中、自車の前方を同一方向に進行中の車両を追い越すに際し、右側に進路を変更し中央線を越えて右側部分に自車の車体半分以上をはみ出して約100メートルにわたり右側通行した

10  前記日時ごろ、前記公安委員会交通規制の場所と指定した同市○○町××番地先道路において前記車両を運転中、自車の前方を同一方向に進行中の車両を追い越すに際し、右側に進路を変更し、中央線を越えて右側部分に自車の車体半分以上をはみ出して約50メートルにわたり右側通行した

ものである。

(法令の適用)

非行事実1の(1)(2)につき 道路交通法64条、118条1項1号

非行事実2、3につき 同法43条、4条1項、119条1項2号、同法施行

令1条の2

非行事実4、8につき 同法7条、4条1項、119条1項1号の2、同法

施行令2条1項

非行事実5、6、7、9、10につき

同法17条4項、119条1項2号の2

(処遇について)

1  少年は、小学生のころから家の金を持ち出したり、母親に反抗したりという問題行動が発生し児童相談所の指導を受け、また中学生になると空巣、学校荒し、バイク盗等を重ね、当裁判所の審判を受けたりした。その後、高校へ進学したものの窃盗を犯して退学し、漁船員として稼働していたが、昭和59年1月交通事故により父は死亡、母は重傷のため入院するなど家庭的に不安定な環境になると、暴行事件や無免許運転の罪を犯したため、保護観察処分決定を受けた。しかし、保護観察にも従わず、無免許運転の前歴をかくすため住民票を改ざんして原付自転車・自動二輪車の各運転免許を取得したり、亡父の死亡保険金から普通乗用車を購入して、徒遊にふけり無免許運転を反復して人身事故を惹起したため、同60年9月18日中等少年院(一般短期処遇)送致決定を受け、○○少年院に入院した。

2  少年は、同61年3月6日同少年院を仮退院したが、入院中に前記免許の取消し処分を受けていたので免許を取得出来ないことが判つていながら、同月19日またも住民票を改ざんして同月24日自動車学校へ入学した。また、同年4月28日には184万円でトヨタクレスタ2000CCを購入し、同年5月6日午前1時ころこの車を無免許で運転して電柱に衝突する事故を起こし、検察官送致決定となり、罰金5万円を受けた。更に、同年6月20日ころには160万円でトヨタソワラ2800CCを購入し、この車で無免許運転を繰り返しているうち、同年8月22日無免許運転中警察官に発見されて逃走し本件の1の(2)から10までの各非行を犯し、現行犯逮捕されたが義理の叔父が身柄引受人となつて釈放されるや、すぐ無免許運転を繰り返し、同月31日本件1の(1)の非行を犯して現行犯逮捕され、同年9月1日観護措置決定を受けた。

3  少年は、無免許運転を繰り返し、交通事故を起こしたため少年院に入院したのに、仮退院直後から以前にも行い発覚して免許取消処分を受けたことのある同じ手口で不正に免許を取得することをもくろみ住民票を改ざんし、さらに無免許であるのに高価な普通乗用車を購入して無免許運転し、事故を起こすや、また高価な乗用車を購入して無免許を繰り返し、これを発見されるや逃走して無謀運転をするなど、その遵法精神欠如の程度は著しいといわねばならない。これまでに数回の家庭裁判所の審判を経、さらに保護観察所や少年院などの指導を受けたにも拘らず、全く行状改善がなされず更生の意欲がみられない。

4  少年は、仮退院後漁船員として稼働した1月余りを除いては無為徒食し、勤労意欲に乏しく、将来の展望もなく享楽的に遊興にふけつている。そのうえ、交通事故の後遺症で苦しむ母から亡父の死亡保険金を引き出し、これまで少年の数回に亘る車代、事故処理代等で1000万円余を費消し、収入の見込みもないのに多額のローンを組むなど、無計画・無責任な生活態度で終始している。

5  少年の家庭は、少年の非行を心配し、漁船員から農業へ転職して少年の指導に当たつていた父を交通事故で失い、重傷を負つて後遺症に苦しむ病弱な母と妹たちだけとなり、今後の保護能力も期待できない。

6  このような少年の非行歴・非行態様・資質・環境等を総合すると、少年に対し更に矯正教育を施し、性格の矯正と遵法精神(特に交通に関し)を涵養し、規則正しい生活の習慣をつけさせ、勤労意欲の向上をはかり、将来の生活設計をたてさせ、計画的な経済生活を送れるよう指導することが必要である。

7  よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 小田八重子)

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